INTERVIEW ARTICLEインタビュー記事

ひとつに統合され、自律的に動く組織を創る「デザインマネジメント」

〜現状の企業が抱える課題と、なぜそれが「デザイン」で解決するかをVALUE LABOに聞く〜

「デザイン」という言葉からあなたは何をイメージするだろうか。多くの人は、ウェブサイトやファッション、プロ ダクト、インテリア、空間など、目に見えるものをより美しく、より気持ちよく見せるための手法と捉えているはず だ。日常で目にするデザインは、私たちには「視覚的な工夫」と映る。

もちろん、それはロゴやコーポレートカラーを見栄えのいいものに改良するといった、VI(Visual Identity)的な 話ではない。けっして視覚的ではない組織そのものを「デザイン」するというのだ。

VALUE LABOが提唱する「デザインマネジメント」を真に理解するためには、まず私たちがもっている一般的な 「デザイン」の意味を定義しなおし、目に見えない経営やビジネスにそれがどのような影響を与えるかを知る必要が ある。

・ なぜいま、組織改革や組織設計ではなく「組織デザイン」が必要なのか?

・ そもそも組織をデザインするとは何を意味するのか?

・企業や経営者が抱えるさまざまな問題に、デザインはどのような解を与えてくれるのか?

VALUE LABOで「Managing Design※」(デザインのマネジメント)を担当する草野 紀親氏と、「Designing M anagement※」(組織、経営、ビジネスのデザイン)を担当する辰野 博一氏に、「デザインマネジメント」が組織 にどのような価値を創造し、経営やビジネスに何をもたらすのかを聞いた。
※出展:Dumas, A. and H. Mintzberg (1989), “Managing Design / Designing Management”

価値観が多様化した時代に企業が抱える課題は何か?

倉園:
おふたりの話をうかがって、企業が抱える現状の問題点についてはよくわかりました。VALUE LABOはこれらの課題を「設計」や「再編」ではなく、「デザイン」という組織にとってはあまり聞き慣れない概念で解決しようとしています。なぜいま、経営やビジネスに「デザイン」が必要なのでしょうか。

草野:
インターネットの普及によって、マスコミ四媒体が圧倒的な優位を誇る時代は終わりました。ユーザーや顧客の価値観は多様化し、企業が提供すべき価値の範囲が広がると同時に、それをどのように共有するかの捉え方も大きく変わりつつあります。

現在の課題はもちろん、「そのような新しい価値をどのように創出するか?」に尽きます。

四大メディア主導でマーケティング的な手法が主流だったころは、みな「1+1=2」といったマ ニュアルやフレームワークなどを頼りにして、それらの公式にあてはめれば答えが出ると信じて いました。公式に従ってAとBのどちらのやり方が正しいかを判別し、さまざまな数字を最適 化し、生産性を上げようとします。

ところが、そのような公式もまた消費されていきます。書店に行けばマーケティング関連の書籍 がずらりと並んでいるように、あらゆる人が同じように学んでしまったことで、すでに横一線、 レベルの差というものがほとんどなくなってきました。これが最初の問題です。

そのような状況に加えて、いま私たちは、価値観が多様化した時代に新たな価値を創出しなけれ ばならないという新たなフェーズに立っています。

それは、すでにある道筋をなぞるだけで実現できるものではありません。ゼロから1を生み出す こと、プロトタイプ、すなわち「最初の原型」を創造することが求められるということです。 言い換えるならば、圧倒的な時間と労力を費やし、あくなき工夫を積み重ねて、初めて到達でき る領域といってもいいでしょう。

マーケティングの手法だけに頼ってきた人はここで大きな壁にぶち当たることになります。なぜ ならば、過去のデータを参照にして、既存のフレームワークの順序どおりに進めるというやり方 は「再現性」こそが生命線だからです。残念ながら、何もないところから価値を生み出すクリエ イティブには「再現性」などという概念はまず通用しません。

つまり、現在の企業が抱える問題の本質は、「こうすればこうなる」という公式に頼りきってい るうちに、クリエイティブにもっとも必要な、自ら考え創意工夫するという大切な能力を弱めて しまったことだと私は考えます。

倉園:
辰野さんはいまの経営やビジネスにどのような問題があると考えていますか。

辰野:
私はもともと大企業で商品企画やマーケティングを手がけていました。やはりそこでは確 実に売れそうなものを創るというのが大命題で、どうしても多数決的な判断に従って制作を行う 流れになってしまいます。突き抜けたものを創りにくい環境だと感じていました。

そんな中、草野さんがおっしゃるような時代の変化に伴って、これまでのマーケティング手法だ けでは、大ヒットはもちろん、普通に売ることさえ難しくなってきました。にも関わらず、誰も が同じようなプロセスを同じように繰り返そうとします。

そのようなやり方がつまらないと思うようになり、6年前に会社を辞めて中小企業の支援を始め ました。その中小企業にも、大きな変化が起こっています。

とくに、私が手がけている製造業の多くは下請けと呼ばれる企業です。大企業や中規模企業のた めに部品などを製造しており、そのほとんどが下請けの事業だけで経営が成り立っていました。

いま、大企業のパワーが軒並み落ちています。大手からの受注は当然、減少する傾向にあり、す でに下請けだけでは立ち行かなくなっているという状況です。彼らはみな、このまま事業をたた んでしまうのか、それとも足りなくなった部分を補うために新規事業にチャレンジするのかとい う大きな帰路に立たされているわけです。

実際に、後者の起死回生の策にトライして成功しているところもあります。そういう企業は例外 なく、世の中にない新しい価値を創造しています。大企業では生み出せなかったものを創り出せ ているといってもいいでしょう。

彼らがどうやってそれを実現したのかを細かく見ていくと、マーケティングに長けているケース もありますが、経営者が好きなものや、経営者がクリエイティビティーを発揮できそうな領域に 挑むことで成功しているケースが多いのです。

やはり、マス的な発想ではなく、自分自身が創り手として新たな価値を見出していくというや り方に、中小企業の生き残る道があるのではないかと思います。

ただ、そのようなやり方で成功している経営者は、もともともクリエイティブな資質や、クリエ イティビティーを発揮できるマインドセットをもっていたという意味で恵まれている人たちなん ですね。

ここにひとつの課題が見つかります。クリエイティブな事業をやってこなかった経営者が、どう すれば心のそこから「創りたい!」と思う分野を見つけられるか。どのようにしてゼロから新た な価値を創出していくかという課題です。

一方で、私自身、大きな企業で商品企画をやりながらヒット商品も出したことがありますが、自 分にクリエイティブな素養があるとは思っていません。つまり、生まれもった才能があるかない かに関わらず、「どうすればクリエイティビティーを発揮できるか」という命題に落とし込める ように思うのです。

残る問題は、どうやって経営者をそこに導くかです。

草野:
新規事業ということで言えば、物作りというクリエイティブな領域と、経営が分断されているこ とも大きな問題です。

私自身、広告のデザインを手がけていたときは、「なんでこれだと効果が出ないんだ? なんで 売れないんだ? いいデザインなのにどうしてだ?」とひたすら試行錯誤を重ね、創意工夫を繰 り返していました。狭い範囲の中で一生懸命、考え抜いてきたのがクリエイターだと思います。

同時に、私はその会社では役員でもありました。では経営の側はどうか。役員会議で出される事 業計画、数字の立て方、さまざまな判断の基準、そのすべてがクリエイティブではありません。 行きすぎた最適化やリスクヘッジ、結果重視、売り上げ重視の発想。

クリエイティブな領域に時間と労力を費やす価値をまるで見い出せていないのです。これでは誰 が経営をやっても、同じような結果しか生まれないことは明らかです。

それぞれのレイヤーが違うのはわかります。でも、あまりにかけ離れすぎています。この分断さ れている両者を、もう一度、つなぎ合わせなくては、新しい価値を創出することも、新規事業を 生み出すことも難しいと思います。

「デザイン」によって人間ありきのビジネスに戻る

倉園:
おふたりの話をうかがって、企業が抱える現状の問題点についてはよくわかりました。VALUE LABOはこれらの課題を「設計」や「再編」ではなく、「デザイン」という組織にとってはあま り聞き慣れない概念で解決しようとしています。なぜいま、経営やビジネスに「デザイン」が 必要なのでしょうか。

草野: 私の考える「デザイン」とはすなわち「コミュニケーション」です。1964年の東京オリンピッ クのとき、日本人のデザイナーが世界に先がけて「ピクトグラム」を発案しました。

当時の制作メンバーでデザイン評論家の勝見 勝氏の「漢字も英語もわからない世界中のすべて の人にわかるようにしてくれ」という指示のもと開発されたのが、いまではすっかり世界標準に なった「ピクトグラム」です。

つまり、「デザイン」とはあくまで「人が人に伝える」ための手法であって、人間を外したとこ ろに「デザイン」は存在し得ないということです。;

そこには、思想や哲学、思い、情熱が不可欠です。それらなしに施されたデザインは、私にいわ せれば失敗であり、命が通っていません。そこからは何も展開しないし、誰かに愛されることも ないでしょう。

いま、手軽にデザイナーを見つけられるクラウドサービスがありますが、あれはまさに人が不在 の仕組みだと思います。そこに思いや情熱はありません。ただ、どんな見た目にしてくれるかだ けで受発注が行われています。それは視覚的な見栄えだけを整えるデザインです。

VALUE LABOが提唱するのは、そういったものとはまったく異なる、「コミュニーション」を 軸にした本来の意味においての「デザイン」です。このことを前提にすれば、経営もビジネスも すべて「デザイン」できることになります。

先のマーケティングの話でいえば、最初にターゲットや層を想定します。でもそれは、こちら側 が勝手に考え出したバーチャルな存在に過ぎません。要は、リアルな人間が登場しないんです。 価値が多様化したいま、そのような手法が通用しなくなるのは当然です。

マネジメントや経営に関しても、「組織」という幻想のようなものの中で考えているから、本当 は人間が働いているにも関わらず、そことうまくコミュニケーションをとろうとか、わかり合お うとの努力がまったく成されていません。それよりも、数字や効率や生産性のほうが優先される おかしな状態になっているのです。

繰り返しますが、「デザイン」は「コミュニケーション」なので、まずは経営者の発信したい何 か、伝えたい何かありきです。それが製品やサービスとして具現化されていきます。

対顧客の場合には、それらをどういうパッケージで、どういう見せ方で、どういう色合いで伝え るか、そのすべてが「デザイン」です。

企業の中なら、経営者の「こういう組織を作りたい」という思いから始まります。30人、40人 の社員に何を感じて毎日この会社に来てほしいのか。ここで働くことでどのようなやり甲斐や感 動を得てほしいのか。すべてを経営者から彼らに「コミュニケーション」するということです。 そのすべてが「組織デザイン」だと思います。

辰野:
中小企業はそれがやりやすい環境だと思います。あたりまえのことですが、中小企業の社員数は 小規模です。ここでは、ひとりの人間が組織に与える営業がものすごく大きくなります。経営者 だけでなく現場も含めて、上から下までこのことはあてはまります。

ひとりの社員、ひとつの部署を変えるだけで、ドミノ倒しのように変化の連鎖が起こり始めるの が中小企業なのです。このような組織での「デザイン」は、経営から全体のパフォーマンスまで、 短期間のうちに大きな影響をもたらします。

さらに、大企業ではトップと社員が会話することなどまずありえません。せいぜい部長、課長、 責任者といわれる人止まりです。これに対して、中小企業の場合は、社員が経営者と直接「コミ ュニケーション」する機会は数多くあります。

つまり、経営者との「コミュニケーション」を改善しさえすれば、社員のマインドセットを変え られる可能性がある環境でもあるということです。その意味で、とくに中小企業に対して「組織 デザイン」がもつパワーはより強力で、成長を促す源になり得ると考えます。

私たちがあえて「設計」や「再編」と言わずに、「デザイン」としているのは、けっして組織の 構成や構造を変えたいわけではないからです。組織を変えるよりも、経営者が発するメッセージ やパッションをダイレクトに伝えるほうが早いし、そのほうが社員にとってもより腑に落ちると いうか、ハッピーなことだと思います。

組織の再設計ということになると、どうしても構造を変えるといった形になってしまいます。先 の話につながりますが、人を見ているのではなく、人がもっている機能や職能だけを見て配置を 換えていくようなイメージです。はたしてそのような解決策が本当に働いている人にとってハッ ピーなのでしょうか。

はやりそうではなくて、経営者がこういうふうに進みたい、こういうふうにありたいからみんな にはここに共感して一緒に動いてほしい、君はこのミッションを果たしてほしいといったところ をダイレクトに「コミュニケーション」していく。それが「デザイン」の意義ではないかと思い ます。

生態系のように統合された組織が自律的に動き出す

倉園:
「デザイン」についてはよくわかりました。では、おふたりがイメージする「よくデザインされ た組織」ではどんなことが起こり始めるのでしょうか。

辰野:
社員が自律的に動けるようになります。自ら考え、自ら行動する。

その反対が大きな組織です。こちらは、「こういうふうに会社が動いてほしい」という経営者の 思い描くビジネスのフローや、意志決定のフローから入っていきます。仮に社長の思いどおりに 成功したとしても、けっして社員が自律的に動いた結果ではありません。

それで企業のパフォーマンスが上がることはあるかもしれませんが、はたして社員がハッピーか、 毎日楽しく働きに行けているのかというと大きな疑問が残ります。もしそうでないとしたら、そ の組織はサステイナブルではありません。いつかは破綻することになると思います。

「よくデザインされた組織」とは、自分に課せられたミッション、あるいは自分が設定したミッ ションをしっかり感じ取りながら、自律的に動ける組織です。さらに、誰かがその方向に変わり 始めると、それがいい循環を生んでさらに多くの人が自分で考えて動くようになる。これが理想 的な流れですね。

草野:
やはり統合だと思います。私にとっての「よくデザインされた組織」とは、会社というひとつの 「生き物」を形成できている状態です。これが実現していないと、嘘をつかなければならなくな ったり、重要な会話がまったく交わされなくなったりします。

スタートアップの場合なら、さまざまなフェーズで経営者がいくつものフォーメーションを作って しまい、社員から見るとこっちに目が行っていると思ったら、今度はあっちを向き始めたと不安 を感じるようなことも起こります。

経営者がいくつもの顔をもっているような状態です。これでは牽引力を発揮することはできませ ん。

反対に、会社を生態系のようなひとつの「生き物」として形成できれば、どこかに問題が生じた としても、すぐにそれを発見できるようになります。人間がどこかを痛めたときに、自分でその 箇所に気づけるのとまったく同じです。

もし、組織がバラバラだとすれば、人の数や方向性の数だけ何十個もの問題を同時に抱えること になるでしょう。それでは、どこがわるいかを発見することなど不可能です。

だから生態系で捉える。組織を人として捉える。VALUE LABOはひとつに統合するために組織 を「デザイン」するのです。

倉園:
ありがとうございます!

取材・インタビュー・記事執筆:倉園 佳三

Contact ご相談・お問い合わせ

VALUE LABOに関心をお寄せくださり、ありがとうございます。
ご相談・お問い合わせの内容は下記からご連絡ください。

When you work with us 協業について

VALUE LABOでは、「普遍的なフィロソフィー」と「新しい価値を生み出す力」を原動力に
ビジョンで繋がる多種多様なパートナー様と、協業・分業しながら共存共栄していく
「生態系」のビジネスエコシステム概念を推進しています。(文章仮)

ページ上部へ戻る